論文解説 Ohgushi et al. 2015


 Ohgushi E, Mori C, Wada K.

Diurnal oscillation of vocal development associated with clustered singing by juvenile songbirds.

Journal of Experimental Biology 218, 2260-2268. 2015 doi:10.1242/jeb.115105

 研究成果の概要

 ヒトの言語獲得や楽器演奏,また運動技能習得といった学習(感覚運動学習)には,自ら行う練習が重要です。小鳥のヒナは,親の歌を聞き,記憶して,その後2~3ヶ月の間,発声練習を毎日繰り返して自分の歌を完成させます。このとき,小鳥のヒナは誰かに強制される訳でもなく,自発的に発声練習を繰り返します。毎日1,000回以上にもなる発声練習が,一日のなかでどのように行われているのか,そしてどのように発声学習が進むのかを今回明らかにしました。3ヶ月以上にわたる24時間自動録音によって得られた録音ファイルを解析した結果,発声学習中のヒナと学習後の成鳥では一日のなかの「さえずり」の回数や頻度が大きく異なっていました。歌学習中のヒナのほうが一日のなかで短時間に集中して発声練習を行います。それに対して,成鳥は一日中だらだらと歌をうたう傾向がありました。ヒナが発声練習をしている間には,その日の朝に歌いはじめたときの歌から徐々に異なる歌パターンに変わっていきますが,一旦休憩すると朝のはじめの歌パターンに戻ってしまうような変動が起こります。つまり,発声学習中の日内の発声練習と休憩が,一日のなかで歌が上手くなったり下手(もとのパターン)になったりする発声パターンの変動と合致して起こっていることが明らかになりました。一日のなかの発声練習の頻度を人為的に減らしたり,聴覚入力がない状態にすると,そのような歌パターンの変動が見られなくなりました。今回の研究によって,自発的な練習の回数・タイミング・頻度が日内の行動パターンの発達学習においても影響を与えていることが明らかになりました。

 (背景)

 ヒトの言語獲得や小鳥の歌学習のような発声パターンの学習では,学ぶべき音を聞くだけでなく,自ら発声してそれを繰り返す発声練習が大事です。しかし,この発声練習が個体発達の過程で一日のなかでどれくらいの頻度・長さで自発的になされているのかほとんど明らかになっていませんでした。また,一日のなかの発声練習の頻度が発声学習の発達そのものにどのような影響を与えているのかも分かっていませんでした。

 

 (研究成果)

 小鳥の成鳥は一日中だらだらと歌をうたう傾向があったことに対して,ヒナは一日のなかで短時間に集中して発声練習を行っていました。ヒナと成鳥では一日のなかの「さえずり」の回数や頻度が大きく違っていたのです。小鳥のさえずり歌はヒナのときに学習感受性期※があります。そのため,成鳥とヒナのさえずり行動の違いが歌学習に重要な意味があるのではないかと考えました。実際,歌学習中のヒナの歌パターンの解析をしてみたところ,ヒナは発声練習中にはその日の朝に歌いはじめたときの歌とは異なるような歌パターンを発声しますが,休憩すると朝のはじめの歌に少し戻るような歌い方をします。この歌パターンの変動を繰り返しながら,一日のなかで少しずつ歌パターンの学習が進んでいることが分かりました。つまり,ヒナは発声練習と休憩を繰り返すことで,一日のなかで歌が上手くなったり下手(もとのパターン)になったりしながら,学ぶべきお手本の歌に似せた歌パターンを発声できるようになることを意味します。また,一日のなかの発声練習を人為的に減らしたり,聴覚入力がない状態にすると,そのような歌パターンの変動が見られなくなりました。聴覚入力がない小鳥は下手な歌(お手本の歌とは違う歌)しかさえずれません。今回の研究によって,小鳥のヒナの自発的な発声練習の回数・タイミング・頻度が一日での歌パターンの学習変化量に影響を与えていることが明らかになりました。

 (今後への期待)

 今回の研究によって,小鳥のヒナは発声練習の回数・タイミング・頻度を誰に教わることがなしに,自ら歌学習発達に適したように行動していることが分かってきました。ヒトを含めた多くの動物が,いつ,何を,どのように学ぶのか,そのための学習時間や頻度を自発的に制御し,適切に学習発達が進むような自己訓練・自己教育が実行できるように学習行動を生得的にプログラムされているのかもしれません。アクティブ・ラーニング等の教育法の開発など,教育学と行動学との融合研究にもつながる可能性があります。

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